「目的のない雑談」が苦手な人に足りない、ワーキングメモリーとは。
アスペルガーの恋愛事情⑤
ワーキングメモリは鍛えられる
ワーキングメモリーについては、本書においては「短期記憶」くらいの意味でとらえておいてください。人と会話をするときは、少し前に聞いた話を覚えていて、今聞いたばかりの話とつなげることで意味を理解しています。ほんの数分前、数秒前の記憶が積み重なっていくことで、初めて相手の言っていることが理解できるのです。
アスペルガーの多くはこのワーキングメモリーが非常に弱っていて、相手が言ったそばから話を忘れてしまいます。1時間も話しているのに、「あれ? この人、名前なんだっけ?」「どういう流れでこの話になったんだっけ?」と、途中までの記憶がすっかり抜け落ちていたりするのです。
実際、アスペルガーの人は、耳で聞いて物事を理解するのが苦手です。先にも述べましたが、学校では先生の言うことがなかなか理解できず、授業についていくことが困難です。
その代わり、視覚情報にはとても強く、大量の情報を長期的に記憶することができます。だから、先生の話を聞かなくても、参考書で勉強すれば、内容がしっかり頭に入っていきます。
アスペルガーの中には、文章を書くのがうまく、メールのやり取りで異性の心をつかめる人もいます。しかし、いざ会ってみると、メールとは打って変わって全く会話がはずみません。ワーキングメモリーが弱いせいで話を理解できず、見当違いな返事をしたり、同じ質問を何度も繰り返したりして、相手をうんざりさせてしまうのです。
とはいえ、ワーキングメモリーは訓練によって鍛えることができます。恋愛だけでなく、仕事にも日常生活にも関わる能力なので、僕はよくその訓練法を指導しています。
〈『隠れアスペルガーでもできる幸せな恋愛』より構成〉